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技術の可能性を耕す

1964年に和歌山県・和歌山市で創業した、丸編みを得意とするカネマサ莫大小株式会社。スーパーファインゲージと呼ばれるとても細かい編み目のジャガード素材を製造できるのは、世界でもカネマサ莫大小だけの技術である。これまで素材をアパレルブランドに販売してきた同社だが、一般顧客向けの自社ブランドを立ち上げる機運が高まりつつあった。同社の技術があれば、既存の価値に寄り添った高品質な製品を目指すことは可能である。しかし、よりユニークな唯一性を求め、自社の技術を使ってどんな新たな可能性を呼び覚ます事が出来るか?ブランド立ち上げの起点として、製品のデザインではなく、技術の可能性を耕す取り組みを行うことにした。

スーパーファインゲージのような特別な技術には、クリエーターの創造力を呼び覚ます事が出来ると考えている。さまざまなバックグラウンドを持つクリエイターを招聘し、それぞれの視点から最先端の丸編み技術を使った魅力を読み解き、その成果を展覧会という形式で提示するプロジェクトを行なった。TAKT PROJECTは、プロジェクトの企画・展覧会キュレーション・クリエーティブディレクションを担当、また、一作家としても作品をデザインし参加した。

563699964WHAT’S KNIT展 - これが、ニット。これも、ニット。

「ニット」と聞くと、冬のセーターをイメージする人が多いかもしれません。でも実は、多くの肌着もスポーツウェアもTシャツも、ニット素材でできています。天然素材でもよく伸びて、身体にフィットし、シワになりにくい性質を持つニットは、機能的な素材としてあちこちで活用されています。でもニットのすごさは、それだけではありません。カネマサ莫大小株式会社は、和歌山県・和歌山市での創業から57年、ニットにおける丸編み技術の最先端を、常に追い求めてきました。この展覧会では、カネマサが取り組んできた技術の可能性を、さまざまな背景を持つ5組のクリエイターと共に提示します。知るからこそ見えてくる、ニットの知られざる面白さ。ニットを再発見するきっかけになれば幸いです。

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FROTTAGE / 大野友資

木材に金属や樹脂などを貼り付けてつくる「化粧板」という素材があります。この「フロッタージュ」シリーズは、伸縮性のあるやわらかいニットと木材とを重ね合わせた「ニット化粧板」です。木目を強調する「うづくり」という加工を施した板と「46ゲージのダブルフェイス組織」という、きめ細やかなハイゲージニットを合わせることで、生地の編目が木目の凹凸に自然に追従し、繊細な模様が浮かび上がります。表情豊かなテクスチャーのバリエーションをいかし、インテリアや家具のための建材として展開していくことを想定しています。
テキスタイルディレクション : TEXT
制作 : studio arché

Profile
大野友資
1983年ドイツ生まれ。DOMINO ARCHITECTS代表。東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。カヒーリョ・ダ・グラサ・アルキテットス(リスボン)、ノイズ(東京/台北)を経て2016年独立。2011年より東京芸術大学非常勤講師を兼任。

DOMINO ARCHITECTS
大野友資によって2016年に設立されたプラットフォーム。デザインの実践と理論の両面から歴史や文脈への接続を試み、情報と物質、デジタルとアナログ、ハイテクとローテクを相対化するような設計を手がける。その活動はさまざまなチームとの協働によって形作られ、建築、インテリア、プロダクトデザイン、リサーチや企画開発まで多岐にわたる。www.dominoarchitects.com

mist / 小野栞

糸であり、布であり、そして服でもあるこの作品。まるで極薄の和紙のような、繊細で透明感のある素材を開発するところから、制作は始まりました。機械で編めるギリギリの細さの「ポリエステルモノフィラメント」という糸を使用し、さらに後加工を施すことで、陰影がある霞のような生地ができました。72本の糸によって編まれた生地のうちの一本だけをほどき、糸状になった素材を元の生地に手作業で編みつける作業により、機械編みと手編みの両方の質感が共存しています。一着のなかでさまざまな表情が見られる作品です。

Profile
1995年、東京都生まれ。東京造形大学大学院造形研究科 美術研究領域 博士後期課程在学中。2017年より作家活動を開始し、1本の糸から皮膚のような衣服を制作している。国内外での作品展示、ミュージシャンの衣装のデザイン制作などを行う。http://shiori-ono.com

CFCL003 / 高橋悠介

一般的に丸編みは筒状に編まれた素材を、裁断してから使います。しかし本作品では、白、黒、そして白と黒2色の3つのパートがつながる筒状の反物を、切らずにそのまま活用しました。ここにある3着は全て同じ組織ですが、白と黒のワンピースだけ柄が浮かび上がります。編み方の違いで多様な柄を生み出せるハイゲージジャカードの面白さを伝えるために、10種の組織の全てを切り替えずに編み続きにしました。本作品も、また自身のブランドであるCFCLでも、生産工程でのロスを最小化するとともに再生繊維を中心に素材を選んでいます。今回はGRS認証を取得した、ペットボトル由来の再生ポリエステルを使用しました。

Profile
1985年、東京都生まれ。文化ファッション大学院を修了した後に、株式会社三宅デザイン事務所に入社。2013年より「イッセイ ミヤケ メン」のデザイナーに就任する。2020年に独立し、株式会社CFCLを設立。www.cfcl.jp

Nen dot/wave/geometry / 氷室友里

テキスタイルデザイナーとして織物を専門とするなかで、織物と編物との構造の違いに着目しました。織物はタテヨコ方向に引っ張ってもほとんど伸縮しませんが、編物の組織は柔らかく伸縮性があります。そのため、特殊な性質をもつ化学繊維を使わなくても、動きのある造形が可能です。この作品には「強撚糸」と呼ばれる、ある一方向に強くねじった綿の糸を用いています。天然繊維だけで、どこまで立体的な表現が可能かを実験しながら制作しました。タイトルの「Nen」は強撚糸の「撚」から来ています。ハイゲージニットならではの繊細な凹凸感や透け感から、光と影のニュアンスを楽しむ布のあり方を探った作品です。

Profile
日本とフィンランドで活動するテキスタイルデザイナー。人と布との関わりを通して、日々に驚きや楽しさをもたらし、豊かにしていくことをテーマとしたテキスタイルブランドYURI HIMUROを立ち上げ、オリジナル作品の開発、空間演出、企業へのデザイン提供などを行う。www.h-m-r.net

Equilibrium Flower / TAKT PROJECT

しなやかなニット生地が、ぎりぎりのバランスで自立する作品です。
熱をかけると収縮する「熱融着糸」を編み上げ、熱によって硬化する特殊な生地の開発により、この形は生まれました。金属のフレームを生地に押し当てて部分的に熱すると、そのフレームに沿って布は硬く収縮します。しかし熱がかからない部分は柔らかいままのため、布ならではの柔らかい質感と、構造的な支持体が同居しています。外側に広がろうとする布のふるまいと、それを支える構造が釣り合うその姿は、開花間際のツボミの生命力と、外界との均衡状態とどこかリンクします。今まさに花開こうとするツボミのように、柔らかくも強い存在感をまとう作品です。

Equilibrium Flower